ファイアドレイク
毎日、ゴミを漁る日々だった。
わずかばかりの希望にすがりつき、子供は空き缶を目の前に置き、道行く人に言い続けた。
「恵んで下さい」と。
道行く人々は皆ゴミを見るような目で自分を眺め、通り過ぎていった。
大きな光は色濃い影を生み出した。
子供もそのうちの一人だった。
毎日朝から晩まで路上に立ち、恵んで下さいと言い続ける。
夜になればゴミを漁り、家に持ち帰った。
スラム街の一角。かろうじて雨がしのげる古い家で子供は生まれた。
両親に今日の成果を手渡す。
それで褒められる事は無い。
その先はいつも決まっていた。
「このクソガキが、これしか稼げなかったのか」と。
罵られ、殴り飛ばされる。
子供は徐々に感じる事をやめた。
来る日も来る日も子供は同じ日々を繰り返していた。
ある日、雨の夜だった。
子供はずぶ濡れになりながら路上に立ち、いつものように恵んで下さいと言い続けた。
空き缶に水が貯まれば、それを空け、再び路上に置く。
その時、再び雨水を空けようと缶を逆さまにした時、一匹の動く何かが出てきた。
子供は両手でそれを抱え上げる。
見るとそれは蜥蜴のようだった。
まだ子供なのか、とても小さかった。
子供はボロボロのTシャツの中に蜥蜴をしまいこんだ。
冷たくて、ちょっとくすぐったかった。
夜になり、子供はゴミを漁り始める。
その時、Tシャツにしまっていた蜥蜴にも食べ物を与えた。
家に帰っても、子供は蜥蜴の事をずっと隠していた。
一人の友だちができた。
子供は寂しさから開放された。
小さな友達が一緒にいれば寂しくなんか無い。
蜥蜴はまるでその意思を汲み取ったかのように、子供に甘えた。
子供は生まれて初めて愛された。
それから数カ月経った時。
空き缶に躓いた一人の人物が子供を罵ってきた。
「この糞ガキが、そんなもん置いてるんじゃんねぇ」と。
空き缶を踏み潰し、子供を蹴り飛ばした。
道行く人はみな無関心を装い、通り過ぎていった。
子供のTシャツから蜥蜴が出てきて、子供をける男の顔にひっついた。
男は悲鳴を上げ、蜥蜴を思い切り道路に叩きつけた。
蜥蜴は動かなくなった。
うつろう意識の中で子供は友達が死んでいくのをただ見るしか無かった。
その夜。
傷ついた身体を引きずり子供が向かったのはゴミあさりでは無かった。
蜥蜴を殺した男が住む家
きがつけば子供は男のあとをつけていた。
玄関で男を子供と母親が出迎える。
しっかりした家、暖かい光が窓越しにもれている。
楽しそうな笑い声が聞こえてきたようだった。
子供はその光景を見ながらもう動くことは無い蜥蜴をずっと撫でていた。
なぜ?
僕はなぜ奪われたんだろう。
傷の痛みも忘れるほど、子供の心は悲しみと絶望に深く襲われていた。
やがてそれは巨大な恨みへと変わる。
僕は奪われたのに…
蜥蜴を撫でながら子供の心はどす黒い感情で満たされていった。
その時だった。
死んだはずの蜥蜴が再び動き出した。
そして子供の手を離れると、全身に炎をまとわせ自分を投げ捨てた男の家へと向かっていく。
一瞬だった。
男の家は巨大な炎に包まれていた。
とても暖かい炎だった。
子供はゆらめく炎の中で確かに見た。
愛されている自分の姿を。
優しい父と母、暖かい家と食事。
今までどす黒かった心が満たされるようだった。
蜥蜴は再び自分の元に戻ってきた。
それは炎を纏っていたが、決して自分を傷つける事は無かった。
子供は両親に蜥蜴のことを話した。
だが、両親は嬉々として話をする子供を気味悪がった。
子供が抱えていたのは何の変哲もない蜥蜴のおもちゃだったのだ。
あの日、道行く人が缶の中に入れたのはお金ではなく、とかげのおもちゃだった。
慈悲ではなく、戯れに。
あまりの寂しさに子供にはそれが生きている蜥蜴に見せていた。
そんなはずはない
子供の目の色が急に変わった。
だったら見せてあげるよ。
そう言って子供は自分の家に火を放った。
炎の幻影の虜になった子供には現実の区別はもうついていなかった。
極限状態の精神は幻影を現実とすり替えることによって保たれていたのだった。
子供は警察に捕まった。
まともな精神状態ではなかった。
しきりにこのトカゲが火を拭くことが出来ると、ドス黒くなったおもちゃの蜥蜴を指差して言うだけだった。
こどもは病院に送られた。
そこでも子供は尚、火蜥蜴の話をずっと言い続けていた
そこにとある人物が訪ねてきて、こういった。
「キミの話は本当だ」
子供はその人物に引き取られていった。
強大な圧力と取引が起きたらしい。
暫くして後
グラウンドスターに新たな商品が生まれた。
火を吹き、相手を焼き尽くす真っ赤な衣装を着た怪物。
ファイア ドレイク
小柄だが、身のこなしが素早く、火の威力は対戦相手を地獄の苦しみに陥れる。
そして倒れた相手に、幼い声でこういう。
ほらね。僕の蜥蜴は火を吹くんだよ。すごいでしょ?と。
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