大和蒼汰

とある街で現場と荷台を行ったり来たりする少年の姿があった。

まだ仕事に慣れていないのか、よくドヤされ、怒られる事も多かった。

それでもその少年は汗だくになって仕事をしていた。

素直で真面目。

冬でもノースリーブ一枚の姿で額に汗して走り回る少年の腕と顔には傷が目立っていた。

だが大人たちは何も聞かなかった。

男は少しやんちゃぐらいが良い。

自分たちも荒くれ者だった男たちはむしろたくましいと思っていた位だった。

少年は次第に大人たちに可愛がられるようになっていった。

いつもの帰り道。

汗臭い身体でコンビニに寄り、弁当を買って家に帰る。

最近覚えたコーヒーが少年のお気に入りだった。

少年が住んでいるのはボロボロのアパートだった。

風呂なしで、出迎える者はだれもいない。

簡素なテーブルとせんべいのように薄い布団だけがある日当たりの悪い部屋だった。

もっといい部屋があったのに、少年は頑なにこの部屋が良いと言ったらしい。

少年は夜が来るのが怖かった。

古いアパートは街の外れにある。

少年は自分の部屋に明かりを付けることは無かった

眠れない日は部屋で筋トレを行い、体が疲れ果てるまで続けた。

少年は誰よりも早く現場に行き掃除を続けていた。

根は素直で真面目である。教えられたことを素直に受け止め、

一生懸命に覚えようとしていた。

昼時になれば皆から食べ物を分け与えてもらっていた。

もらった少年の顔は屈託の無い笑顔だった。

ある日の帰り道

事務所に寄る事になり、いつも帰るルートとは違い、少年は商店街を歩いていた。

この街に来て日は浅いとは言ったものの、来たことが無かった町並みに少年は目をキョロキョロとさせていた。

その視界に一つの影を見つける。

地元の不良がいかにもひ弱そうな少年から金を巻き上げようとしていたのである。

気がついたときには既に割って入っていた。

殴られても動じず、頭突きと蹴りであっという間に不良を撃沈していた。

少年はそこから欲するようになっていく。

筋トレだけでは収まりきらなくなった不安をかき消すように、少年は夜の街をうろつくようになった。

喧嘩相手を探して。

少年の噂はまたたく間に不良達の間で広まっていった。

少年は仕事場にたまに顔を腫らせて来ることが多くなった。

大人たちは気にはかけていたが心配はしていなかった。

腕っ節は見なくてもわかる。

「ほどほどにしとけよ」

そういうだけだった

少年は喧嘩の持つ魅力を思い出してしまっていた。

殴り合い、疲れ果てれば忘れる事が出来た。

少年が噂になった原因はその闘い方にあった。

攻撃を一切避けずに、全てを受けるという。

生半可な攻撃では動くことすら無く、血を流せば流すだけ強くなると言う。

自分に課した罰。

例え全てを忘れても、それだけは忘れる事が出来ないままだった。

いつものように少年は喧嘩を求め夜の街をさまよう。

そこで少年は相手にしてはいけない存在に手を出してしまった。

いくら力が強く頑丈だと言ってもそれは不良たちの間での話。

喧嘩を生業とする者たちは相手を完膚無きまでに叩きのめす方法を熟知していた。

敵わないとわかっていても、少年は己に課した罰を貫いた。

誰もいない場所に連れ込まれ、骨が折れればその箇所をさらに責められ、

少年は地べたをのたうち回った。

それでも立ち上がり、抗い続ける。

何度も意識を失っては、また這い上がり、正面から立ち向かっていく。

立ったまま意識を失うまで、少年は血みどろになりながら抗い続けた。

計画通り。

組織は少年にエサを撒いた。

少年の働き先を調べるのは造作も無い。

この街で生きていくものならば侵してはいけない領域と絶対のルールがある事を

知っていた。

だれにだって家族があり、護るべきものがある。

大人たちはルールに従うしか選択の余地は無かった。

弱者を狙う不条理な暴力に少年は過敏な反応を示す。

飼いならした不良ども達を仕掛け、噂が本当かを確かめる。

情報の選別が終わった頃、組織は行動に出た。

絶対的な街のルールの元、少年の存在はこの街から消える。

気を失う間際、少年はずっとユウタという名前を呟いていたらしい。

グラウンドスターに新たな商品が入荷した。

大和蒼汰

青いショートタイツにレガースのみを身に着けた若いレスラー。

怪物の攻撃を傷だらけの身体で受け止め、真正面から立ち向かっていく。

鮮血に染まり、激痛に地べたをのたうち回り、気を失うまで不条理な戦いに抗い続ける。

人間対怪物

絵に描いたような残虐な見世物は今日も人々を熱狂させる。

fpwstory

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